別冊クラッセ|教育をめぐる冒険|ダルビッシュ セファット・ファルサ




ダルビッシュ有投手の父と紹介する方が早い。
17歳で祖国イランからアメリカへ単身留学。
サッカー選手として米国フロリダ州代表として鳴らした。
日本人女性と出会い、そのまま国際結婚。
イランの父親像は、伝統的に家族の中心。
地域社会で役割を果たし、公正・公平を重んじる。
日本球界のエースを育てる教育の神髄。
異文化を飛び越えて父親が果たすべき役割とは。





ダルビッシュさんは、何があっても子どもを信じてやる。最後まで、子どものがわに立ってやる、ということを大切にされていますね。

家族は一つの組織です。どんな組織でも必ず問題は発生します。No problem is problem. 問題ないことの方が、むしろ問題ですね。(子どものことで)問題ないと安心していても、後で爆発するからね。

(子どものことで)問題が起こったら、それを理解して受け止めて、それに対して何をしたらいいか、一つ一つクリアーしていけばいいんです。親であるということは、素晴らしいことです。問題を解決する中で家族のきずなが深くなっていくんです。




ダルビッシュさんは、日本語がとってもお上手なんですが、日本には、いついらっしゃったのですか?

わたしはちょうど25年前、1982年に日本に来ました。イランから17歳のときに、アメリカへ留学しました。フロリダ州のタンパという町にわたしの大学があったんです。ちょうど、家内も、家内は日本人ですが、その頃1年間、同じ大学に留学していたんです。家内とそこで知り合いになって、同じアジアの臭いというか、懐かしいところも感じて、ぜひ、日本にも一度行きたいなと思いました。

大学3年生のときに、一度、日本にホームステイをしました。そして、大学を卒業したら2年間、日本の文化や日本語を覚えたいなという気持ちで最初はいたんですが、もう、25年いますね。最近は日本人より、日本人らしいと言われたりします。

ダルビッシュさんは、最初、日本で英会話を教えていらっしゃったそうです。やがて、英会話スクールにたくさんの生徒が集りだし、その生徒たちをほって帰ることもできず、また、奥さんとのご結婚もあり、そのまま日本に住み着いてしまったとお聞きしました。

アメリカの大学院に戻るつもりだったんです。しかし、日本とイランの共通点が多くて、イランが西アジア、日本が東アジアとすごく離れているのですが、非常に似ているところが多いんですね。歴史を大切にする。義理人情を重んじたり、恥じの社会ですね日本は、最近は少し変わってきているかもしれませんが。年配の方を大切にするとか、尊敬するとか、そういうところが非常に似ているんですね。とても懐かしかったんです。それで長く居るようになりました。

アメリカよりも、日本の方が居心地が良かったのですね。

アメリカは、スピード、スポーツ、パワー、ノウハウ、ディスカッションなどということがキーワード的にあります。しかし、日本の方が、一つ一つの行動に意味があって深い歴史があるんですね。

少し哲学的な深い内容です。茶道・華道や剣道・柔道など、道とつくものには優劣や勝敗を競うのではなく、立居振る舞いや作法に意味があるのですね。そこに、生き方の美学がある。そういうところを指摘されているように思います。



イランや日本は、共生社会、敵対しようというのではなく、どちらかと言うと、みんな仲良くしましょうという雰囲気があるんでしょうね。

歴史ある国は、わたしはいつもフィルター(ろ過装置)という言葉を使っているんですが、文化の中にある一つ一つのことは、必ず、フィルターされているんですね。何千年、何百年をかけてね。

なるほど、生き方が、何千年という歴史のフィルターを通して洗練されてくるということなんですね。

(アメリカとは)家族と言う意味が違いますね。お父さんお母さん、おじいちゃん、おばあちゃんがいる。家族を大切にする。その流れで、わたしは、今でも家内のお父さん、お母さんと同居しています。年配の方の意見や考えは必要と思っています。

三世代同居ですね。なるほど、日本人より、日本人らしいと言われるゆえんです。
2002年に、ダルビッシュギャラリーを設立されました。ペルシャ文化を伝えたいという思いで設立されたのですね。

あまりにもイランやペルシャの情報が日本に来ていません。来ていても非常に古い。石油と砂漠だけとか、あまりにも現実とのギャップがあります。何かできないかということで、イランの文化を、手作り商品の良さやバラの国であることなど、イベントを通して伝えたいなという気持ちがあるんです。

バラというのは、フランスの文化でも有名ですが、イランもバラで有名なんですね。

バラの中で、ダマスクローズ(ペルシャ原産)という最も臭いの強い、エッセンスの強いバラがあります。それはイランで2500年の歴史があります。イランで、5月の半ばから終わりにかけて、バラのフェスティバルがあるんです。そこに、ローズオト、つまり、ローズオイルをみなさん買いに来られるんです。わたしは、チャレンジとして、イランのローズオトを輸入して、オードトワレを東京の会社といっしょに開発して、今、ギャラリーにオリジナルで置いています。イランの文化を日本に橋渡しをしたいなと思っています。



日本に来られて25年、異文化のなかで苦労されたこともあったでしょう。3人のお子さんをイランとは違う文化の中で育てられました。父親として、どうやって子育てをしていったらいいんだろうか?と悩まれたこともあったと思います。

わたしの場合、イランの社会、アメリカの社会、日本の社会と3つを経験しています。子どもたちがハーフということですが、フェアーネス(公平さ、公正さ)、つまり、悪いことをしたら悪いという意識を持たせることが大切と考えています。

日本で生まれて、日本人のお母さんですから、日本の心をわかってほしいと思いました。そこで、父親として、他の日本人のお父さんといっしょで、負けずに頑張ろうと思いました。地域社会のなかで、自分の役割を生かすべきと考えて積極的にかかわりました。そういうように意識して子育てをしました。

まず、父親として、日本に同化して、地域に溶け込んで子育てをされようと心がけられたんですね。

野球を子どもがやりだしたときに、他のお父さんと同じで、車での送迎、運営やコーチなど平等にやるべきだと考えてやりました。



ファルサさんはサッカーをされていたそうですが、有さんはサッカーではなく、野球をされていますね。有さんが自分で選ばれたんですか。

わたしは、サッカーだけじゃなしに、モトクロスとか、アメリカではバスケット、テニスとやりました。基本的にスポーツというのは、どれもよく似ているんですね。

チャレンジの部分や、自分に負けずに練習することや、仲間同士の気持ちを理解することや、目標を達成するように頑張ることなど、80%は同じだと思います。後の20%はルールが違うだけですね。

子どもたちは3人とも男ですから、汗を流して勝つことの喜びとか、負けることの悔しさとかを経験させようと思いました。有もサッカーとかをやらせたんですけれど、ボールを投げたがるんですね。ドッジボールしようとか。それで、野球を本人が選んだので、わたしはサポートにまわりました。

わたしは、野球を知らなかったから、子どもといっしょにグローブを買って、最初からスタートしました。

親子でいっしょになってということを大切にされます。日本では、父親は仕事だけ、家庭では母親任せ、というパターンが多いようですね。

イランでもアメリカでも、やはり、お父さんの役割は、家族の中だけでなく、コミュニティの中でも生かさないといけません。

ただ、わたしは、お父さんの姿を見せたかったんです。他の日本人のお父さんと変わらないよ。やることはちゃんとやってるというところは意識しました。



親の後ろ姿を見せることは大切ですね。

う~ん。まあ、まだ結果は出てないんですけどね。父は家族を守って、子どもたちが問題を起こしても、(見捨てるのではなく)ずっとそばに居てやる。子育ては、結局、ネバー・エンディング・ストーリーです。

そう、子育てには終わりはないですよね。それで、聞きにくい話なんですが、ハーフということでお子さんはいじめられませんでしたか。

家でも子どもたちに言うのですが、やっぱり、名札がダルビッシュということでハーフとわかりますよね。それで、ハーフといじめられても、それは、コミュニケーションの始まりと考えているんです。

わたしも日本に来たときには、子どもに「ああ、外人」と言われましたが、わたしも子どもたちに、「ああ、外人」と言ってやるんです。

子どもたちは「わたし外人じゃないよ」。いや「わたしから見たら、外人だよ」とね。それがコミュニケーションのスタートだと思うんですね。子どもたちにも、そう説明しました。

ダルビッシュさんは、自分の子どもだけでなく、地域の子どもも大切にしようとおっしゃいますね。

子どもは成長し、社会に出て、他の家族の子と結婚したりして、世の中とつながっていきます。だから、自分の子どもだけでなく、よその子どもに何が教えられるか、何ができるか、やはり大切だと思います。




なかなか言えることではありません。よその子を叱って、逆に、うちの子をなぜ叱ると怒鳴られることもあるそうですから、みんな、よその子はよその子と、見て見ぬふりをしてしまいますからね。

よく、うちの子に何も言わないでと言われることもあるんですが、わたしは、それを聞いて「じゃあ、やめる」ということはありません。

自分の信条を変えるつもりはないんです。叱る時は叱りますし、ほめるときはほめますし、いつかその親もわかってくれるだろうとね。勝手な思いですけどね。

なるほど、fairnessフェアーネス=公正・公平を重んじるということがわかりますね。
自分の子どもを大切にするように、他人の子どもも大切にする。なかなかできることではありません。